2019年3月17日日曜日

九番:清水坂公園、疑惑の湧水池

 王子から東十条まで、本郷台地の崖線はわずかにカーブを描く一本のラインとなっているが、赤羽に近づくとそのラインを分断して3つの谷が台地に深く刻み込まれている。そのもっとも南側の「稲付谷」に入っていこう。

 埼京線がまだ開通しておらず、池袋から赤羽までの「赤羽線」だった頃、赤羽の手前、京浜東北線に合流する付近で、車窓が開け、窪地に木造の官舎が並んでいるのが見えた。それらは戦前に建てられた兵舎をそのまま転用したという、国鉄の官舎だった。どこか時代から取り残されたような空間で、背後の崖の斜面を覆う木々も印象的だった。
出典:「一万分の1地形図 赤羽」国土地理院(1984)より

 官舎は1980年代後半には取り壊されて、しばらく空き地となっていたような気がする。そして1994年には、全体が清水坂公園として整備され、斜面の地形を活用した人工の渓流や滑り台が設けられた。公園の片隅には、北区自然ふれあい情報館が建っているのだが、その裏庭の自然園にある池が湧水を貯めているのだと聞いた。
 以前池を見たことはあり、確かに崖下にあるのだが、果たして湧水なのかよくわからなかった。清水谷公園の窪地は稲付谷の枝谷の一つではあるのだが、自然の谷は公園北端から隣接する西が丘小学校付近までで、それより南は官舎を建てる際に丘を切り開いてできた人工の窪地だ。自然園の池が面する崖もその際にできたものだ。そして池の標高も14mほどと、近くの他の湧水がいずれも10m前後から湧いているのに対してやや高く、不自然だ。事実を確かめに、改めて池を見に行った。

 池の周りは、1日に数回あるガイドの時だけ入ることができる。参加した日は薄曇りだが寒さが緩いできた日。池の中にはあちこちにひも状のカエルの卵が見られた。背後の崖で冬眠していたアズマヒキガエルが、2月末に目覚めて産卵したという。その数110匹というから壮観、というより壮絶だったのではないか。この日もまだ何匹かの姿が池の中に見られた。

 冬の間ご無沙汰していたアメンボの姿も今年初めて見かける。アメンボは落ち葉の下で冬を越しているという。池から流れ出す水路にはメダカの姿も見えた。少しずつ、春が近づいている。背後の別の小さな池は水田で、初夏になると田植えがされる。

 さて、水の出どころは一体どこだろうか。池に注ぐわずかな流れを追うと背後の崖の斜面から出てきてはいるが、そこにはパイプかホースのようなものが見える。いったい水の出どころはどこなのだろう?湧水ではなく水道水ではないのか?

 ガイドの方に訊いてみると、実は公園内の別の場所に湧水があり、そこからポンプアップして引いてきているということだった。水道ではなかったが、ポンプアップということは地下水の汲み上げではないのか。
 さらにガイドの方からとりついでいただいた別の職員の方に聞いて、謎が解けた。確かに湧水はあった。教えていただいた場所は、池から南東に80mほど離れた公園の一角。円形の石組みに囲われたすり鉢型の窪みの底に水が溜まっていた。

 何度もそばを通っているはずだが、あまりに人工的な外観のせいで、これが湧水だとはまったく意識していなかった。灯台下暗し。地上の標高11mちょっと。ということは水面は10m弱で、これまで見てきた湧水と同じ高さから湧く水となる。掘り下げたことで、地下水位に達して水が出ているのだろう。そういう意味ではどちらかというと井戸に近いといえるし、池の底が地下水位より低くなっていることで水の湧く池も都内各地にあり、それらの仲間とも言える。このところ各地で目立つ地下水の渇水のせいか水位が下がっている様子で、水もあまり元気がない感じではあるが、この水が先ほどの池や水路の水源となっているということだ。低い池から高い池への水のトランスポーテーション。

 なお、「清水坂」は公園とは離れた埼京線の線路の東、若宮八幡神社脇を通る旧岩槻街道が、本郷台地から低地へと降りていく坂だ。切り通しの崖から絶えず清水が湧き出ていたことに由来するといい、こちらの湧水とは関係はない。

住所:北区中十条4
水量:不明
用途:池
立地:本郷台地
タイプ:池
湧出地点の標高;10m
水系:稲付川(石神井中用水)
東京都湧水台帳コード:Ho-3

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

1 件のコメント:

  1. 地図にも標記されていますが、この円形の湧水のちょっと南に官舎のプールがありました。もしかしたら湧水を利用していたのかもしれませんね。
    サイズは小学校のプールくらいでしたが、暗い感じで子供心にちょっと怖かったのを思い出しました。

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