2020年7月31日金曜日

番外編:東京弁財天・厳島神社・水神社マップ

 更新が滞っておりますが、ここで番外編として湧水に関連の深い、「弁財天」の所在地をプロットした地図を公開します。
 水のない場所に弁財天や厳島神社(市杵島神社)の祠がある場合、そこはかつての湧水池があった場所を示していることが多く、暗渠や川跡を探す際の目印にもなります(ただし、別の神社の境内に移転されている場合もあり、来歴には注意が必要です)。
 一通り知っているものを掲載しましたが、まだ抜け漏れがありそうです。もしここにもあるよ、といった情報があればお寄せください(七福神像が並んでいる中での弁財天像といったようなものは除く)。
また、そのうち水神社や、水垢離場などに設けられた不動尊、水源に祀られた他の祭神の祠なども、あわせてプロットしていきたいです。

※水神社についても追加を始めました。青が水神社、赤が弁天社となります。


2020年3月4日水曜日

四十二番:石神井川の蛇行跡に湧く水(音無こぶし緑地)

 板橋区から北区へと入る前後の区間の石神井川は、かつては細かい蛇行が連なっていた。下図は大正15年の1万分の地形図。くねくねと曲がる流路が確認できる。1960年代から70年代にかけ、洪水対策でこれらはショートカットで直線化され、川も掘り下げられた。

 現在、石神井川が埼京線の線路を潜り北区に入ると、川の両岸に入れ替わり立ち代わり、音無くぬぎ緑地、音無こぶし緑地、音無けやき緑地、音無もみじ緑地、音無さくら緑地と、蛇行の跡地を利用した小緑地が続いている。その中のひとつ、こぶし緑地を訪れてみた(上地図矢印箇所)

 川の両岸にあるくぬぎ緑地とこぶし緑地を結ぶ橋から石神井川を見下ろしてみる。川面までは相当の深さがあり、絶壁のように護岸がそそり立つ。改修により掘り下げられた分もあるが、地形図や古写真をみると、それ以前からもこの付近は水流で深く浸食され、渓谷のようになっていたようだ。この絶壁の左側にこぶし緑地がある。

 こぶし緑地は蛇行の跡を平らに均して、ちょっとしたベンチなどがある以外は何もない小さな広場になっており、南側を向いていて、日当たりはよい。近所の子供がキャッチボールをしたり、犬の散歩をしたり、ちょっと一息ついているような空間になっている。流路跡の三方を囲む崖の斜面には集合住宅が数軒。その中のひとつは4階建ての4階が出入り口になっている。緑地の標高は14mほどだが、台地の上は24mと、標高差が10mほどあるためだ。

 崖の下に沿って、S字に曲がる石組みのせせらぎがつくられている。こちらは親水施設で、木陰には循環水を流す機器が見える。このときは冬場のためか水は止められていた。しかし、どこからかこぽこぽと水音がする。

 人工のせせらぎに近づくと、その裏側、せせらぎの周囲に配された大きな石に隠されるように、青いバケツが置かれていた。

 バケツには、擁壁の下にコンクリートで固定されたパイプから水が注いでいる。

 水温を測ると17.6度。この日の気温は11,2度ほどだったから、温く感じられるくらいだ。バケツから溢れた水は、親水施設の外側に沿って土の上を流れていく。

動画でも見てみよう。水音が聞こえるだろうか。

 水の湧く崖の北側には北区中央公園や自衛隊の敷地など、まとまった未舗装の土地が広がっている。そのあたりで地面に染み込んだ雨水が涵養源になっているのだろう。近くを通りかかったお年寄りが、水、湧いてるだろ、前よりはだいぶ減ったけどな。と声を掛けていった。岩陰に潜んだ湧水だけど、知っている人は知っているのだろう。そういえばバケツも公園の管理で置かれたようには見えない。近所の誰かが置いたものに違いない。夏になったら子供たちが水遊びに使ったりもするのだろうか。

 崖下では他の場所からも、水が滲み出していた。かつてはこれらの水は直接石神井川の流れに加わっていたのだろう。

川の流路は変わったけれど、その跡に取り残されたように今も湧く水。ちょっと健気な感じもする。

住所:北区滝野川4
水量:少ない
用途:なし
タイプ:崖線
湧出地点の標高:14m
水温:17.2度(2月)
水系:石神井川
東京都湧水台帳コード:Ho-08
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

2020年1月28日火曜日

四十一番:次郎稲荷の湧水ー小石川植物園の崖線

 木々に囲まれた崖線の下の池。その向こう側の斜面の麓に鳥居が見える。冬なのに緑が鮮やかだ。どこか郊外の山里の風景にも見えるが、ここは文京区だ。

 鳥居の先には「次郎稲荷」が鎮座している。かといって神社の境内というわけではない。ここは小石川植物園。正式には「東京大学大学院理学系研究科附属植物園といい、明治10年開園の日本で最も古い植物園だ。前身は江戸幕府の小石川御薬園に遡る。そんな歴史があるためか、敷地には稲荷社が2つある。そのうちの一つが次郎稲荷だ。
 鳥居の近くまでくると、鳥居の前の地面が抉れて溝となっていて、そこから水が湧き出している。

 何とか溝に降りて水面に近づき水温を測ってみると16度。この日の気温は10度を切っていたが、指で触れると温く感じるくらいだ。地上に出てすぐのまだ気温の影響を受けていない、湧きたての水なのだろう。

 水量は少ないものの、水は確実に湧き出しており、傾斜が緩いせいなのかとてもゆっくりとした流れを生み出している。水面の動きはどこか生きもののようだ。映像で見てみよう。

 鳥居の先、湧水の溝の延長線上にも、人の背丈よりやや高く、そしてすれ違えないくらいの狭い溝が白山の台地の崖線に切り込んでいる。鳥居を潜り、忍び込むように隙間に入っていく。

 つきあたりは数mの急斜面になっていて、その下に小さな祠がある。ステンレス製で比較的新しい。祠の脇の地面近くにはぽっかりと穴が開いている。いわゆる「狐のお穴」だろう。溝が曲がっているため、お穴の前に立つと周囲の見通しがなくなり、ただ空の方だけが開けている。隠れ家のような、何かに護られているような、不思議な空間だ。

 祠に至る溝の両側には石が雑然と積み上げられていて、その上には石碑や古びた狐の石像が何体も無造作に据えられている。狐はあちこちが欠けていて、歳月やかつての信仰を偲ばせる。そして鳥居の向こうには湧水の注ぐ池が見える。鳥が呼び合う声と風が木々を揺らす音が聞こえる。

 小石川植物園の敷地は本郷台の一角である白山の台地と谷端川(小石川)の谷に跨っている。北西から南東に細長く続く敷地の向きに沿ってちょうど真ん中あたりを崖線が横切っている。台地の上は標高25m前後、一方谷は10m前後と、かなりの高低差があって、その斜面はすべて木々に覆われているため山の中のような景観になっている。その崖線の下に、ローム層を浸透した水が湧き出している。
 植物園の中の低地はいくつか池が連なっている。西端の池は庭園風に整備されているが、他の池は自然のまま。湿地のようになっているところもある。これらの池には特に給水はしておらず、すべて湧水や雨水だという。
 過去の調査結果では、台地上の植物園敷地で浸み込んだ水だけではなく、植物園の北西側のやや離れた場所で地面に浸み込んだ水も湧き出しているという。六義園あたりだろうか。

 植物園の中には次郎稲荷の袂のほか、はっきり確認できるところであと3か所ほど湧水がみられる(下の地図の星印)。これら以外の場所でもじわじわと染み出し、池の水となっているのだろう。

 これらの湧水はなぜか東京都の湧水台帳には掲載されておらず、あまり紹介されることもない。大学付属の植物園のためか余り混むこともないから、身近に自然に近い湧水を見たい時にはもってこいのスポットかもしれない。

住所:文京区白山3
水量:少ない
用途:池
タイプ:崖線
湧出地点の標高:12m
水温:15.9度(1月)
水系:谷端川
東京都湧水台帳コード:なし

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工