2019年3月11日月曜日

八番:荒沢不動の澄んだ水

 東十条駅前の湧水からさらに線路沿いを北上していく。東十条駅のホームを完全に通り過ぎたあたりで左手、台地の崖線の側を見ると、コンクリートで固められた擁壁の下に、古そうな石像を祀った小さなお堂がある。
「南無不動明王」と記された赤い幟。そしてお堂の屋根の赤、消火器の赤。彩度の低い景観の中で、赤の鮮やかさが目を引く。脇の塀に掲げられた説明板によれば、「荒沢不動」と呼ばれるお不動様だという。そして、小高くなったお堂の下には、よく見ると小さな池がある。

 池からは水が細い溝を伝わってちょろちょろと流れ出しているが、すぐに道路端の雨水桝へと流れ落ちてしまう。道路を挟んだすぐ先はJRの線路敷だ。

この荒沢不動は、江戸時代、厄病が流行った際に羽黒山の荒沢不動を勧請してきたものだという。荒沢不動とは、山形県鶴岡市の荒沢寺(こうたくじ)正善院のご本尊、荒澤大聖不動明王。荒沢寺正善院は現在は羽黒山修験本宗の本山として知られており、山門前には宿坊が並ぶ。

 「荒沢不動」は東日本各地にいくつかあり、伝わる由来は様々だが、実際には修験道の修験者を介して、厄病退散のため勧請したのではないか。この地の荒沢不動も毎年4月15日に、法螺貝を鳴らしながら村内を巡り厄病払いを行ったというから、修験道と関連が深いのだろう。また「荒沢不動の滝」と呼ばれる滝も各地にあるようだ。弁天様と池が縁が深いように、不動様と滝も縁深い。
 荒沢不動はかつては現在地より北の馬坂の下、環七平和橋の掛かる位置に池とともにあり、疫病払いの前には水垢離をしたという。そこにも滝があったのだろうか、とも思うが、この辺りでの湧水ライン10mはほぼ地上レベルなので、やはり滝は無理だろうから、池の中に入って身を清めていたのだろう。

 そして、移転先に現在の場所が選ばれたのも、そこに水が湧いていたからだろう。お不動様の前の池は清冽な水を湛えるが、とはいえとても小さく、水垢離をするにはなかなか厳しそうだ。
ただ、移転は鉄道開通時だというから明治時代。まだ水田と村落の風景が残り、水垢離の習俗も行われていたかもしれない。その頃はもう少し大きい池だったのかもしれないし、柄杓で汲んで被るくらいならこのサイズでもできそうではある。今では水を被る人もなく、水草の中を金魚がのんびりと泳いでいる。

雨水桝に落ちる水音を滝に見立てれば、お不動様の霊験もあらたかに感じられるだろうか。

佇んでいたら、猫がやってきて水を一舐め。水垢離場ではなく、猫の水飲み場だったようだ。

住所:北区中十条4
水量:少ない
用途:池
立地:本郷台地
タイプ:崖線
湧出地点の標高;10m
水系:石神井用水上郷用水
東京都湧水台帳コード:Ho-4
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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