自噴井戸から次の湧水ポイントへ移ろう。西南西に数分歩き、御成塚通りを渡ると、急峻な台地の崖線がまるまる樹林に覆われた風景が目に入る。志村城山公園だ。公園の向かいの低地側は都営志村三丁目アパートで、そのすぐ先には都営三田線の志村三丁目駅と、街中なのだが、この一角は山裾のような風景だ。
崖は出井川の谷と荒川低地に挟まれた舌状台地の北側斜面で、台地の上には16世紀まで豊島氏一族である志村氏の城と伝わる志村城があった。城の二の丸跡にある熊野神社は一帯の村々の鎮守社で、大正時代には志村役場も設置されるなど、志村の中心地のひとつであったといってよいだろう。現在城の遺構は熊野神社境内にわずかに残る空堀の跡くらいで、ほとんど失われている。
さて、標高差18mに及ぶその崖線の裾に水が湧き出している場所がある(下写真の左下)。
近づいてみると、崖下部の石積みの擁壁からコンクリート製の樋が出ていて、同じくコンクリートでできた水桝に水が流れ落ちている。傍らには「この水は、飲まないでください」と大きく書かれた標識が立っている。
樋の先端には苔がびっちりと、青々と生えていた。今年はいつもに比べ水量が少ないようだが、過去の調査では毎分6〜8リットル程度の水が湧いていることが記録されている。水温を測ると17.6度と低く、量は少なくても新鮮な湧き水だ。
桝の中を覗くと、樋の内部にも排水管が埋め込まれているようで、そちらからも水が注いでいる。樋の上を流れる水よりもむしろ量が多い。
こちらは水量が多かった2017年12月の写真。樋の先からの水はそれなりの太さで流れ落ちている。
このとき撮影した動画もあげておこう。樋の付け根の管から滾々と水が流れ出していたのがわかるだろう。
水はいったん枡に溜まったのち、その下部の水抜き穴から流れ出して小さなせせらぎとなる。この写真も2017年12月。水が澄んでいて綺麗だ。
崖下を一筋のささやかな流れが弧を描く。こちらは2019年6月。水量が少なく頼りないが、一応淀まず、流れている。
水は崖下に細長く続く水たまりのような池に注ぎ込んでいる。池がやや濁っているのは前日まで降っていた雨のせいもあるのだろう。この池からさらに親水施設的な固められた水路を通って最後は下水に落ちてしまうようだ。
公園から台地の上の熊野神社やその周辺にかけての一帯約8ヘクタールは、2008年に湧水保全地域に指定されている。こちらの湧水は1980年代後半から90年代前半にかけてはどうも涸れていたようだが、保全地域となったことで涸れることはなくなったのだろうか。いつの日か、ここだけでなく崖下のあちこちから水が湧く日がくればよいのにと思う。鬱蒼とした崖線の緑にはそんな風景がふさわしい。
住所:板橋区志村2
水量:少ない
用途:池
立地:成増台(東京都の立地区分による)
タイプ:崖線
湧出地点の標高;8m
水温;17.6度(2019年6月)
水系:出井川
東京都湧水台帳コード:Na-37
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工
0 件のコメント:
コメントを投稿