2019年4月14日日曜日

十五番:烏森稲荷神社 See you again 狐の口から出る湧水(2019/10/22追記)

2019/10/22 狐の口からの湧水復活について文末に追記しました。
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 つぎの巡礼先は東山貝塚公園から南東に1kmほど、上目黒3丁目にある烏森稲荷神社の湧水だ。貝塚公園とは、目黒台の一部が岬状になっている丘を挟んだ反対側に位置している。
 烏森稲荷神社は目黒川の谷から分かれた蛇崩川の谷の北側斜面に鎮座する、かつての上目黒村宿山(のち烏森も)の鎮守社だ。宿山は神社背後の台地上、現在の野沢通り付近にあった集落で、明治にはその東側が、神社の名前から字名を取り烏森となった。さらにその東、台地の岬の先端は、今では高級住宅地となっている諏訪山だ。

 神社は17世紀後半の創祀と伝わり、一説によれば村人の稲荷講が新橋の烏森神社(明治初期までは烏森稲荷神社)を訪れた際、帰りに白狐がついてきたのを祀ったのが始まりともいう。境内はそれほど広くはないが、斜面の南に面して日当たりが良く、隅々までよく手入れされていて心地よい空間になっている。

 境内には蛇崩川の谷底から石段で少し上がるのだが、社殿は大谷石の擁壁でさらに一段高くなっている。その正面の左手の擁壁前に手水舎がある。ここが今回目指してきた湧水だ。

 この手水舎の吐水口、狐の顔になっていて、狐の口から水が出てくる仕掛けとなっている。近年は涸れていることが多いと聞いていたがこの日も残念ながら見ての通り、狐の口元は乾いていた。

 狐の頭を上から見ると、擁壁から出た導水管に繋げられていることがわかる。別の場所から導水しているようだが、水源はどこだろう。そして水盤にはきれいな水がたまっていて、鮮度もよさそうだ。湧水は止まっているのに、どういうことだろうか。

 境内をうろうろしたり佇んだりしていると、社務所から老婦人がお出ましになり、声をかけていただいた。お出かけするところだったが話が弾み、いろいろと神社の水環境について教えていただいた。

 ご婦人の話によれば、湧水はかつてはかなりの水量があったが、神社の裏手の宅地化が進んで、緑も減り、以前より涸れがちになっているそうだ。特に今年は雨が少なく、湧水はしばらく途絶えているが、雨が続けばまた湧くだろうという。そして、水盤に水があるのは、参拝者のためご婦人が毎朝入れ替えているからとのことだった。

 狐の口から出る湧水の水源について尋ねてみたところ、社殿の裏側の崖下にあるという。水はいったんそこで溜まるようになっていて、一定の水位を越えると地中に埋めた配管に溢れ出し、手水舎の吐水口から出るような仕掛けになっているそうだ。かつては更に水量が増すと、別の配管に入って石段を挟んだ反対側の擁壁にも出ていたとか。手水舎と狐は昭和初期に作られたもので、狐の耳はいつのまにか欠けてしまったそうだ。

 お話しを伺ったあとで実際に社殿の裏側を見てみると、コンクリートの丸蓋と矩形の鉄蓋の2か所の水溜めらしき設備があった。

 ちょっと失敬して鉄蓋の方の中を覗いてみる。蓋を開けると湿気をたっぷり含んだ暖かい空気がもわっと放たれた。蓋の裏には水滴がたっぷりとついていた。中は浅い素掘りの窪みとなっていて埋もれかけた配管が見える。ここに湧水が浸み出してくるのだろうか、それとももう一つの丸蓋の方に湧きだした水の中継ぎだろうか。標高は19mと東山貝塚公園の湧水と同じだ。
 それにしても、底に鮮やかな黄色の花が落ちているのが不思議だ。一体どこから入り込んだのだろう・・・。そういえば、水盤にもおちたばかりの緑の葉が1枚、底に沈んでいた。

 ご婦人のお話しに戻る。神社の境内は地中の水が豊富で、社務所の建て替えの際は、地下水対策で基礎工事をかなりしっかりと行ったくらいだという。また、日当たりもよいため、木々や草花がよく育つそうだ。確かに境内を見渡すと、社殿を囲む木々の他、各所に草花が植えられていて、新緑や花の色が鮮やかだ。古い擁壁の下など、子供が立ち入ると危ないような箇所に、ただ禁止の立札を立てるのも無粋なので、草木を植えることで自然と近寄れなくするようにしているのだという。

 伺っていて面白かったのは参道脇の丸い花壇。ここは実はお焚き上げをする穴だという。よくあるように板などで蓋をするのもよいが、それでは殺風景なので普段は花壇にしておき、年末年始の期間だけ掘り起こして花を植え替えるそうだ。

 そのほか、蛇崩川が暗渠化する前、大雨で氾濫して鳥居の下まで水が来たこと、大木の枝払いの話、戦後、社殿の屋根を茅葺から瓦に変えた時のこと、神社の立地には湧き水が関係しているだろうということなど、いろいろとお話しは尽きず。この冬から春にかけては草木に勢いがなく、やはり少雨の影響で地下水が減っているのではないか、緑の様子をみれば環境の変化がよくわかる、水がなくては人は生きていけない、自然に対しては人間はどうすることもできないのだから、謙虚にならなくては、といったことをおっしゃっていたのが印象的だった。

 新元号を記念してつい先日紅梅と白梅の苗木を植えたので、最初の花が咲く来年またいらっしゃい、とのお言葉を最後にいただいたが、来年といわずまた梅雨の後にでも訪れて、今回は見ることは叶わなかった、狐の口から流れ落ちる湧水を確かめてみたい。

【2019/10/22追記】========

 記事を記したのち何度か烏森稲荷を訪問してみたところ、7月下旬に訪れたときにはぽつぽつと滴る程度ではあるけど、狐の口からの湧水が復活しており、10月12日の台風19号襲来ののち1週間ほどして再訪すると、写真のように完全に復活していた。

水温は19.1度。水は澄んでおり、水質も悪くなさそうだ。台風の影響で地下水位が上昇したのだろう。日が暮れてからの訪問だったので、社殿裏手の水溜めのほうは確認できなかったl

せっかくなので映像もあげておこう。


 もう少し中目黒駅に近い諏訪山にのぼる坂の途中に、10年ほど前まで湧水があった。現在では住宅が建てられていてわからなくなっていたが、今回訪れたところこちらも路面から水が浸み出しており、また側溝の雨水桝の中でも湧水と思われる澄んだ水がかなりの勢いで流れ込んでいた。蛇崩川左岸側の台地全体の地下水位が上がっているのかもしれない。
========【追記ここまで】


住所:目黒区上目黒3
水量:なし(2019年4月〜6月)わずか(2019年7月)少ない(2019年10月)
用途:手水
立地:目黒台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;19m
水温;19.1度(2019年10月)
水系:蛇崩川
東京都湧水台帳コード:Me-5

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

2 件のコメント:

  1. 烏森稲荷は社地全体が「昔の湧水場って、こんな雰囲気だったんだろうな」と思わせる場所で、とても好きなんですが。ただ古風なのではなくて、神社の方たちの、ふだんの細やかな気遣いによって、そういう雰囲気がつくられているんですね。湧水がとても大切にされていた頃が、なにか懐かしく想像されます。

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    1. 居心地の良い神社ですよね。お話しいただいたのは多分宮司さんの奥様だと思うのですが、話の端々から、水をとても大事なものとして考えていることがよく伝わってきました。

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