2019年4月9日火曜日

十四番:東山貝塚公園 目黒川の正統性を担う小さな湧水

 本郷台の崖線を王子から赤羽まで辿ってきたが、ここでいったん場所を目黒へと移そう。ところは目黒区東山。目黒川の谷筋に面した緩やかな斜面に「東山貝塚公園」がある。道路で2区画に分かれた敷地のうち、西側の方に入るとすぐに池がみえる。その水の源は公園の奥の擁壁の下から湧き出す水だ。崖の上は目黒台と呼ばれる台地で、本郷台と同じく武蔵野台地のM2面に属している。

 公園の名の通り、この地で明治時代中期、人類学者坪井正五郎らにより貝塚が発掘された。当時は西ヶ原貝塚、芝丸山貝塚とならび東京市3大貝塚とも呼ばれたという。縄文中期から晩期にかけて、現在の目黒川の流れる低地は入り江となっており、その水辺に形成された貝塚であった。関東大震災後の土地区画整理時には、考古学者鳥居龍蔵などにより台地の上で竪穴式住居跡や土器、石器も発掘され、その後の調査で、弥生時代から古墳時代にかけての長期間にわたり人々が暮らしていたことがわかったという。

 水の湧き出す公園の奥の擁壁まで近づいてみる。柵に阻まれて直接確認はできないが、崖下に並行している溝の各所で水が湧きだしているようだ。標高は19mほど。王子~赤羽の湧水の10mに対してこちらのほうが10m近く高い。そして崖上の標高は27m。今はコンクリートに塗り固められた崖だが、かつては緩やかな斜面だったのだろう。台地の上に住居を構えた縄文人は、その斜面を下り、湧き水を汲みに来ていたのだろうか。

 湧いた水はT字状に一か所に集められて柵を越え、公園内へと流れ込む。2月に訪れたときは、少雨の影響か水は涸れていたが、4月に入って再訪すると幸いにも復活していた。水温は16.8度。都内の他の場所の湧水と同じくらいの、夏は冷たく、冬は暖かく感じる温度だ。手を触れると冷たすぎずも温くもなく、ちょうどよい。

 写真では水面が動いておらず水量がわかりにくいが、動画で見ると一定の量の水が流れ出していることがわかるだろう。2004年夏期の調査では毎分20リットルほどの湧水量が記録されているが、この日はそこまでの水量はなさそうだった。

 石組の親水路の流れは緩やかな斜面を下って池へと注ぐ。水辺を走り回る子供たち。夏ベンチには一休みする勤め人。のどかな春先の風景が心地よい。

流れの右岸(写真左側の石段下)には格子の蓋がされた雨水桝があり、この中でも水が湧きだしていて親水路の水に加わっている。

格子の間から覗き込むと、崖下からよりもむしろ多いくらいの水が雨水桝に注ぎ込んでいた。こちらは2月に訪れた際も涸れておらず、親水路のせせらぎを維持していた。柵が邪魔して直接水に触れることはできないが、水温を測ったところ、17.4度とほぼ同じくらいだった。

 さて、池に注いだ水はそこからさらに流れ出して、排水口へと落ちていく。これまでみてきた湧水はどれも最後は下水道へと流れ込んでしまっていたが、ここの湧水はちょっと違っている。水は道路下を暗渠で流れ、北東に150mほど離れた目黒川右岸(南側)沿い、常盤橋の袂で親水路として再び姿を現すのだ。

 親水路にはミニチュアの水車小屋も設置されていて、桜の咲く季節だけ、樋に引き込んだ湧水で水車が回っている。背後には大橋ジャンクションのループがそそり立つ。

そして目黒川沿いを50mほど流れたのち、万代橋の手前でその水は擁壁の穴から目黒川へと注ぎ込んでいる。
 100mほど上流、常盤橋の奥には、目黒川暗渠の出口が見える。暗渠から流れ出している一日3万立方メートルの水。その水はしかし、暗渠の先の川から流れてくるのではなく、新宿区の落合水再生センターから導水された下水高度処理水だ。落合水再生センターに集まる下水の大部分は神田川流域の水だから、いってみればいま目黒川に流れている水は神田川水系の水だ。
 一方その水に加わる東山貝塚公園の湧水は、いにしえから目黒川に流れ込んでいた、正真正銘の目黒川水系の水だ。水量は再生水のわずか0.1%にも満たないが、人工かつよその水系の水が流れる目黒川にあって、この湧水が加わることで初めて、川の流れに目黒川の水としての正統性が生まれるといっても過言ではない。
 ささやかな湧水が纏うこの”本物の目黒川の源流”という役目を想うとき、その水がいつまでも涸れないことを願わずにはいられない。


住所:目黒区東山2
水量:普通
用途:親水路、池
立地:目黒台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;19m
水温;16.8度
水系:目黒川
東京都湧水台帳コード:Me-03
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

2 件のコメント:

  1. おおー、次は東山丘陵ですか!。さすが(^^。
    南側の烏森稲荷も、今は湧いていないと思いますが、湧水感たっぷりで、大好きな場所の一つです。

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    1. 次の記事がまさにその烏森稲荷を予定してます!

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