2019年6月24日月曜日

二十五番:成覚寺崖の湧水集水装置

  ステンレスの函に流れ落ちる水。溜まった水は蛇口を捻ればホースを伝わって思うところに注げる。なかなかユニークな湧水ではないか。

 この設備があるのは成覚寺。高輪台の麓を御田八幡神社から南西に200m、こちらもビルの谷間を抜けた奥にあるひっそりとした寺院だ。1625年(寛永2年)創建の浄土宗の寺院で、芝高輪村では最古の寺院と伝わる。本堂が参道に対して横を向いているのが特徴的だ。

 本堂と庫裏の前を抜けていくと裏手に墓地があり、墓地の背後は三田の台地の崖を高い擁壁が覆う。のっぺりとした乳白色の擁壁の中央に、銀色に光るステンレスのカバーのようなものが縦に貼りついている。

 近づいて行くとステンレスカバーの下部は低木の中に隠れ、そばには水槽がいくつか。

さらに近づけば、崖のステンレスカバーの下に、同じくステンレス製の、蛇口のついた箱がついていることがわかる。こちらが冒頭に紹介した湧水の集水装置だ。擁壁の中腹に湧き出す水を集め、崖下に導いている。手前のコンクリートの水槽の上についた蛇口は井戸などではなくふつうの水道とのことだ。

 覗き込むと、集水管を伝わってぽたぽたと水が落ちていて、ステンレス製の容器に水が溜まっている。蛇口の先につなげられたホースは水槽の中に差されており、水面がゆらゆらと揺れている。

どのくらい水が湧いているのか、記録の意味を込め、動画で。

 下を見ると、集水管の湧水とは別に、崖の直下にある溝にも湧水が溜まっていて、おたまじゃくしがたくさん泳いでいた。

 集水装置の傍の水槽はよく見れば風呂桶の転用だ。中を覗くと金魚が泳いでいたフェンスの覆いの上にはホースが置いてある。

 さて、見学の許可をいただきがてら、お寺の方に湧水のことを訊いてみた。お話では、かつては滝のように水が出ており、周囲に飛び散るのを防ぎ水を上手く利用できるよう、カバーを取り付けたという。だが、2000年代初頭、背後の台地の上にNTTデータ三田ビルが建ってからは、湧水量が激減したという。今はもう「涸れている」と残念そうに仰っていた。ただ、ここまでみてきたように、湧水はいまなお、辛うじて生きながらえている。そしてその水は金魚とおたまじゃくしを育んでいる。涸れるというにはまだ早い。もはやかつての湧水量が復活するのは無理なのかもしれないが、もう少しでも生きながらえていてほしい湧水だ。

 今回は確認できなかったが、隣接する民家の庭にも、擁壁から水が湧き出しているという。こちらも東京都の湧水台帳に記載(Yo-02)されており、以前は庭の池に使っていたそうだが、現在は水量が減り、放ってあるようだ。

 ほか、さらに南西には道住寺、願生寺、伊皿子坂下のマンションとかつては湧水が点在していたが、この春確認した限り、今はいずれも姿を留めていない。そして高輪3丁目の東禅寺には湧水を貯めたかなり大きな池があるが、現在は完全に非公開で周囲からもかすかにしか見えず、今のところ航空写真からでしか確認の術はない。


住所:港区三田3
水量:わずか
用途:水槽
立地:淀橋台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;8m
水温;25.7度
水系:東京湾
東京都湧水台帳コード:Yo-03

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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