この設備があるのは成覚寺。高輪台の麓を御田八幡神社から南西に200m、こちらもビルの谷間を抜けた奥にあるひっそりとした寺院だ。1625年(寛永2年)創建の浄土宗の寺院で、芝高輪村では最古の寺院と伝わる。本堂が参道に対して横を向いているのが特徴的だ。
本堂と庫裏の前を抜けていくと裏手に墓地があり、墓地の背後は三田の台地の崖を高い擁壁が覆う。のっぺりとした乳白色の擁壁の中央に、銀色に光るステンレスのカバーのようなものが縦に貼りついている。
近づいて行くとステンレスカバーの下部は低木の中に隠れ、そばには水槽がいくつか。
覗き込むと、集水管を伝わってぽたぽたと水が落ちていて、ステンレス製の容器に水が溜まっている。蛇口の先につなげられたホースは水槽の中に差されており、水面がゆらゆらと揺れている。
どのくらい水が湧いているのか、記録の意味を込め、動画で。
下を見ると、集水管の湧水とは別に、崖の直下にある溝にも湧水が溜まっていて、おたまじゃくしがたくさん泳いでいた。
集水装置の傍の水槽はよく見れば風呂桶の転用だ。中を覗くと金魚が泳いでいたフェンスの覆いの上にはホースが置いてある。
さて、見学の許可をいただきがてら、お寺の方に湧水のことを訊いてみた。お話では、かつては滝のように水が出ており、周囲に飛び散るのを防ぎ水を上手く利用できるよう、カバーを取り付けたという。だが、2000年代初頭、背後の台地の上にNTTデータ三田ビルが建ってからは、湧水量が激減したという。今はもう「涸れている」と残念そうに仰っていた。ただ、ここまでみてきたように、湧水はいまなお、辛うじて生きながらえている。そしてその水は金魚とおたまじゃくしを育んでいる。涸れるというにはまだ早い。もはやかつての湧水量が復活するのは無理なのかもしれないが、もう少しでも生きながらえていてほしい湧水だ。
今回は確認できなかったが、隣接する民家の庭にも、擁壁から水が湧き出しているという。こちらも東京都の湧水台帳に記載(Yo-02)されており、以前は庭の池に使っていたそうだが、現在は水量が減り、放ってあるようだ。
ほか、さらに南西には道住寺、願生寺、伊皿子坂下のマンションとかつては湧水が点在していたが、この春確認した限り、今はいずれも姿を留めていない。そして高輪3丁目の東禅寺には湧水を貯めたかなり大きな池があるが、現在は完全に非公開で周囲からもかすかにしか見えず、今のところ航空写真からでしか確認の術はない。
住所:港区三田3
水量:わずか
用途:水槽
立地:淀橋台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;8m
水温;25.7度
水系:東京湾
東京都湧水台帳コード:Yo-03
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工
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