2019年6月17日月曜日

二十四番:御田八幡の湧水の滝と、亀塚公園の瀕死の湧水

 大松寺から高輪の台地を海側に回り込んで、第一京浜を札ノ辻交差点から数百メートルほど進むと、右手に御田八幡神社の参道が見える。両側をビルに挟まれた参道に入ると、正面に石段があって、その上には社殿が建っている。ビルの谷間の鎮守の森、というのが御田八幡神社のfirst impressionではないか。境内自体は実はそれほど木が鬱蒼としているわけではなく、むしろ開けているのだが、背後に聳える高輪台地の斜面の林が風景に奥行きをもたらしている。
 御田八幡神社は当初延喜式内稗田神社として西暦709年に「牟佐志国牧岡」に鎮祀されたと伝わる古くからある神社だが(稗田神社が現在のどの神社にあたるかについては異説もあるようだ)、現在の場所にこの地に遷座したのは1628年と江戸時代初期となる。かつてはかつては第1京浜=東海道を挟んだ目の前は東京湾の海岸線であり、海に面し東を向いた、見晴らしのよい丘の中腹という立地を選んだのだろう。
 こちらの境内にもまた、高輪の台地から湧き出す水が残っている。社殿に上る石段の左手をよく見ると、少し奥まった場所に滝が落ちているのがわかる。こちらが湧水を利用した滝だ。今ではすぐ近くの建物の階段が視界を塞ぎ目立たなくなっているが、江戸名所図会にも同じ場所に描かれている、歴史のある滝だ。

 建物の隙間から滝に近づいてみる。落差は2mちょっとくらいだろうか。石垣の中ほどにある竜の吐水口から水が滝壺へと滴り落ちている。

 吐水口からの水は、かつてはもっと水量があったのだろう。涸れずに残っているだけでも幸いとするべきか。最近の港区の調査では毎分1~3リットルの湧水量が確認されている。保護柵で囲われていて見えづらいのが残念だ。

 水が落ちるあたりには石が積上げてある。飛沫が散って壮観に見えるようにわざと配されていいるのだろうか。今は水量はあまりないが、それでも水が撥ねるせいか、周囲の石垣の下部は苔が青々とむしている。亀が休んでいた。

 滝壺の中の水は澄んでおり、中でのんびりと泳ぐ金魚の赤い背中が鮮やかだ。だいぶ大きいのもいて、長生きしているのだろう。

 さて、滝を落ちる湧水はこの崖から直接湧き出しているわけではなく、社殿の裏手の擁壁の裏に湧いている水を集水していったん溜めたのち、そこから溢れた水を導水して落としているという。烏森神社の手水舎などと同じような仕組みになっていることになる。探ってみると社殿の左奥の擁壁の前、半ば朽ちた稲荷社の脇に鉄蓋をした貯水槽らしきものがあったが、ここだろうか。隅からは水が浸み出している。

 擁壁の上には台地の斜面が続き、木が生い茂っている。台地上の標高は30mなので、標高差は20m近くに及ぶ。神社正面の階段下の標高は5mなので、そこからだと25m。斜面が急なのでちょっとした山の雰囲気がある。台地の上には亀塚と呼ばれ、古墳とも推定される円丘があって、現在は周囲を含めて公園になっている。
 本殿のちょうど真裏には沖縄の御嶽のイビ門を思わせる石造りの三角屋根のアーチがあった。神社の職員に尋ねたが、何なのかわからないとのこと。その下からもしみ出した湧水がぽたぽたと水滴を落としていた。


 さて、神社の背後にある亀塚公園から、台地の下へと続く階段を降りきった袂の高い擁壁の下にも湧水がある。位置的には御田八幡神社の南隣りとなる。

 植栽が段々に組み込まれた擁壁の下の隅にパイプが出ており、以前はここから湧水が流れ出して、前にある洗い場状のスペースに水が溜まっていたようだ。ただ現在は完全に涸れていて、洗い場も乾ききっている。傍らには湧水のメカニズムや港区内の湧水分布を記した説明版まで設置されており、それなりに力を入れて整備されたようなのだが・・・

 ただ、その水が注いでいたであろう雨水桝をのぞき込むと、中では二方向からきれいな水が流れ込んでいた。地下水位が下がった結果、地上には湧かなくなってしまっただけで、湧水自体は涸れてはいないということだ。しかし、どうも通りの裏手の奥まった場所のせいか、近隣のビル勤務者の休憩スポットとなってしまっているようで、水の中にはたばこの吸い殻が。誰もこの湧水を気にも留めていないようで、つくづく残念だ。
台地の上は公園となっているので比較的水も浸みこみ易そうに見える。湧水が再び地上に姿を現してくれればよいのだが。そうなればゴミを捨てる人もいなくなりそうだ。いや、なってほしい。



【御田八幡神社】
住所:港区三田3
水量:少ない
用途:滝
立地:淀橋台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;10m
水温;不明
水系:東京湾
東京都湧水台帳コード:Yo-1

【亀塚公園下】
住所:港区三田3
水量:わずか(雨水桝内に流出)
用途:なし
立地:淀橋台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;8m
水温;不明
水系:東京湾
東京都湧水台帳コード:なし

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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