しばらく追ってきた目黒台の湧水を離れ、港区の高輪・三田地区へと移ろう。この地域には淀橋台の末端である高輪台地~三田段丘とも呼ばれる台地が、南西から北東に向かって、細長く岬のように突き出している。かつてはその尾根の上を三田上水が通り、台地の崖には各地で水が湧き、東側は東京湾に、西側は古川へと注いでいた。今では水の気配は希薄になっているが、それでも台地の縁にあるいくつかの寺社の片隅には、湧水やその水を溜めた池が残っている。多くは非公開となっているのだが、縁あって何か所か、見学させていただくことができた。その中のひとつ、大信寺の湧水池をご紹介しよう。
大信寺は魚籃坂の麓近くにある、1611年に創建され1635年にこの地へ移転してきた浄土宗の寺院だ。
江戸三味線製作の始祖石村源左衛門をはじめとする石村家の菩提寺となっていて、三味線寺として知られる。本堂の左手、桜の巨木の陰には石村近江顕彰碑が建っている。
港区の調査資料や都の湧水台帳の情報をもとに訪れてみたのだが、湧水はどうやら本堂の裏手にあるようで、見ることができない。うろうろしていると、たまたまいらしたご住職にお声がけいただいた。湧水は裏手の庭にある池に今でも湧いているが公開はしていない、とのことだったが、いろいろとお話ししているうちに、特別に見せていただけることになった。
勝手口のようなところから庭へと入れていただく。庭は庫裏に面していて、台地の斜面の下に、北東から南東にかけて広がっている。よく手入れされている明るい庭で、それほど広くはないが背後の斜面をうまく使っていて奥行きを感じさせる。
池は低地と、斜面の途中の2段に分かれていた。下の段の池は標高は12mほど。底から湧水がにじみ出しているらしいという。水は濁っており、このところの少雨であまり湧いていないようだ。
池の端の小さな石橋を渡って斜面を少し上ると、上の段の池があった。標高14mほどだろうか。こちらは水嵩こそ浅いものの澄んだ水が溜まっている。崖下に配された岩の下などからじわじわと湧いているようだ。
池の北東の端には井戸もあった。中を見せていただくと、池と同じくらいの水面に澄んだ水が溜まっていた。少雨で水はいつもよりは少ないという。
上の段の池全景。背後の崖線の緑が美しい。最近手入れしたというこの崖には亀がたくさん住んでいて、もう少し(訪問は3月)すると冬眠から覚めて池に入るという。
寺の外にでれば、桜田通り沿いには高層マンション群が立ち並び、車がひっきりなしに行き交う。魚籃坂から伊皿子坂にかけては90年代まで他にも何か所か湧水があったが、いずれもビルの建設などで姿を消している。そんな中で、この湧水がまだ何とか涸れずにいるのは奇跡的かもしれない。
ちなみに今回ご厚意をいただいたご住職は非常に多才な方で、三味線寺ということで三味線ももちろんだが、更に雅楽、長唄からイタリア歌曲までこなされるといい、面白いエピソードをたくさん伺った。さらにパイロットの免許もお持ちで、東日本大震災の後は飛行機をチャーターして海上から散華をされたという。なんだかんだと3、40分、お庭を拝見しつつお話しを伺い、長居してしまった。
住所:港区三田4
水量:わずか
用途:池
立地:淀橋台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;12m、14m
水温;不明
水系:古川
東京都湧水台帳コード:Yo-6
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工
あ、今度は高輪台ですね! ここも古道が走るいい丘ですよね~~。このあたりは、湧水はもちろん、お寺もよく知らないので、目黒台や本郷台とはまた別の意味で、すごく楽しみです。港区らしく、お庭もなんか上品に見えますw。
返信削除コメントありがとうございます。励みになります。大きな湧水池があるのに全く公開していないお寺もあって、なかなか厳しいですが、何箇所か紹介していきます。
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