2019年5月12日日曜日

十九番:蟠龍寺、目黒七福神弁財天の池

 前回は羅漢寺川跡に面した湧水を3か所訪ねた。川跡に面してもう1か所、有名な目黒不動の湧水があるのだが、その前に近くの別の湧水池を訪ねてみよう。目黒台の岬状の部分を挟んで反対側、目黒川側の斜面の下に位置している、蟠龍寺の池だ。

 蟠龍寺は、17世紀に開創された浄土宗の寺で、境内には東京近郊では最古の七福神巡りである「山手七福神」のひとつとなる弁財天も祀られている。弁財天といえば芸能の神様としても信仰されているが、こちらの境内には音楽スタジオ「蟠龍寺スタジオ」があって、自主製作レーベルのVentainレコードも運営されている。なかなかユニークなお寺さんである。
 山手通りに面した山門から続く参道を入り数分進むと、突きあたりに木々に囲まれた本堂が見えてくる。

 そして、本堂の前に広がる庭園の中央に、南北に瓢箪のような形をした池が横たわっている。池の姿は江戸名所図会でも確認でき、古くからあったことがうかがわれる。手入れされた木々や植え込みに囲まれ、一度に見渡すことはできないが、その分複雑で趣き深い景観を見せる。下の写真は本堂から池を見下ろした風景。右手前から左奥に池が広がり、中央、植え込みに隠れているところで池がくびれていて石橋が架かっている。

 石橋は3枚の石を渡し、アーチ状になっている。かなり古そうだ。橋を渡ってすぐが本堂の正面となる。

 池は十分に水をたたえてはいるものの、やや濁っている。水の出所を探ると、石橋の南側で竹筒から水が落ちていた。庭園の風景に調和しており、どこからか引いてきた湧水っぽくもある。

 一方池の北側では木に蛇のように巻き付いたビニールホースから水が落ちていてちょっと不思議な感じだ。いずれも水量は少なく、また池の水はやや濁っていて、水の入れ替わりはあまりなさそうな雰囲気だ。

 池は東京都の湧水台帳でも以前は管理番号がつけられリストアップされていたので、湧水があったことは間違いない。現在はどうなっているのか、お寺の方に尋ねてみた。
 かつては池から水が湧いていたが、街の舗装化の進行でその量は減っていき、山手通りの下を通る首都高速中央環状線の工事が始まった頃(2005年頃)からは、自然に湧く水はほとんどなくなってしまったとのことだった。そして、現在竹筒とホースから落ちている水はいずれも汲み上げた井戸水を流しているそうだ。
 池の標高は12mほどと、目黒台の他の湧水よりやや低いくらい。台地を挟んだ反対側、羅漢寺川に面した崖には今でも水が湧いているのとは対照的だ。環境のほか、地下の水みちの向きなども関係しているのだろうか。羅漢寺川の谷戸の間に小さな微低地を挟んでいるから、違う水みちなのか。雨の少ない時期には汲み上げ井戸の水も涸れてしまうことがあり、そのようなときには水道の水を足すこともあるという。ということは井戸は浅井戸で、湧き水と同じ水脈なのだろう。地下水位の低下で、地上に湧き出す水がほとんどなくなり、渇水時にはさらに水位が下がって井戸の底にもでなくなる、ということだ。
 前の写真のホースの背後、本堂の右手にあるのが弁天堂で、少し小高くなったところに木彫りの弁財天が祀られている。そして、その背後の目黒台の崖の擁壁をくりぬいた穴には岩窟弁財天の祠もあって、こちらには中に入ると石像の弁天像が祀られている。やはり水の湧くところ故、なのだろう。

 池の北端には「おしろい地蔵」も祀られていて、お参りした方にファンデーションや口紅を塗られている。広くはないが趣があり、見所の多い蟠龍寺、再び地下水位があがって、弁天様に護られた池に湧水がまたいつの日か復活することを願う。

住所:目黒区下目黒3
水量:ほぼ枯渇
用途:池
立地:目黒台
タイプ:崖線
湧出地点の標高;12m
水温;ー
水系:目黒川
東京都湧水台帳コード:Me-11

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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