2019年9月10日火曜日

三十六番:拝島段丘の湧水(4)わさび田近くの湧水と福厳寺下の湧水

 前回の熊野神社の湧水に続き、その周辺の湧水を見ていこう。熊野神社参道の鳥居の手前で、西へと分かれる道がある。こちらはゆったりとした敷地を持つ旧家の家並みを抜け、段丘をゆるやかに登る坂道となっている。奥に見える森の中には、2つ前の記事でとりあげたわさび田の湧水がある。

 上の写真の地点で左横を覗くと、家々の敷地の間に丸石の護岸であつらえた小さな水路があり、奥に向かって水が流れている。
(流れ)

 水路は道路の端の土管から始まっていて、澄んだ水が滾々と流れ出している。季節により涸れていることもあるようで、6月には全く水は流れていなかったが8月には流れていた。ここに限らず、拝島段丘の崖線からの湧水は季節変動や降水量による変動の幅が大きいようだ。

 水温は19.1度、と若干高めだから、ある程度流れてからここに来ているのだろうと推測し、湧出地点を探ってみた。道路の左側には暗渠が埋まっているのだが、ところどころある柵から中を覗きながら遡っていくと、坂の途中で中の水はなくなり、乾いたコンクリートしか見えなくなる。どうやら途中でどこかから流れ込んでいるようだった。
 坂の途中まで登っていくと、右手の崖下、民家の敷地内から水の流れる音が聴こえてくる。崖下を見下ろすと、玉石の護岸の下から水が湧き出しているのが見えた。傍らには祠もあった。水の行先は家の裏手に隠れてしまい見えないが、おそらくこの水が先ほどの土管へと導かれているのだろう。崖下の標高はおよそ87m。周辺の他の湧水と同じだ。

 こちらの流れも熊野神社からの湧水と同じくわさび田の湧水からの小川に合流している。家々の敷地内や隙間を流れていく小川。流れる水はすべて湧水によるものだ。玉石を積み上げた素朴な護岸が美しい。

 かつて地域の生活用水として大切にされた川の水は現在でもなお、使われているようで、先日は小型の電動ポンプで水を汲み上げ、数十メートル離れた路上に打ち水をしていた。

 崖線が南東へと弧を描いているのに沿って小川は福厳寺の西側で奥多摩街道を越える。崖線の上にある福厳寺の場所には、かつて立川氏の館があったという。同じく立川市の館として有名な立川市内の普済寺敷地と同様、見晴らしのよく利く小高い丘の上という立地だ。そして福厳寺は普済寺の末寺でもある。
 水路は写真左側の家の裏から右へと流れ、道を越えて手前に流れている。奥に見える森が崖線だ。諏訪神社から熊野神社、そしてここ福厳寺にかけて崖線の緑がグリーンベルトのように連続して残っている。この地点でもうひとつ、段丘の崖に湧く水が流れ込んでいる。

 崖線の森の下に近寄ると、擁壁の下に溝が続いているのが分かる。雑草に邪魔されてわかりにくいが、よく見ると水が流れている。奥の森に突き当たる付近が湧水地点で、低いコンクリートの土手前に向かって流れてきて合流している。傍らには古そうな手押しポンプ井戸も見える。

 水量は少なく、地面に染み込んでしまってよくわからない部分もあるが、確かに水が流れている。かつてはもっと水量もあり、館の生活用水として利用していたのだろう。こちらも標高は86mほどと、これまで訪ねて来た段丘下の湧水とほぼ同じ。

 奥多摩街道を南側に渡った小川は、更に諏訪神社の湧水からの流れを合わせたのち、阿弥陀寺方面からの流れを合わせていよいよ中沢堀と呼ばれる川となる。写真左側の流れが阿弥陀寺からの水路だ。次回はこちらの水源、阿弥陀寺を訪ねてみよう。

住所:昭島市中神町2
水量:少ない(民家) わずか(福厳寺下)
用途:生活用水民家)
立地:拝島段丘(東京都の立地区分による)
タイプ:崖線
湧出地点の標高:87m
水温:19.1度(2019/8)
水系:中沢堀〜昭和用水〜残堀川
東京都湧水台帳コード:なし

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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