2020年3月4日水曜日

四十二番:石神井川の蛇行跡に湧く水(音無こぶし緑地)

 板橋区から北区へと入る前後の区間の石神井川は、かつては細かい蛇行が連なっていた。下図は大正15年の1万分の地形図。くねくねと曲がる流路が確認できる。1960年代から70年代にかけ、洪水対策でこれらはショートカットで直線化され、川も掘り下げられた。

 現在、石神井川が埼京線の線路を潜り北区に入ると、川の両岸に入れ替わり立ち代わり、音無くぬぎ緑地、音無こぶし緑地、音無けやき緑地、音無もみじ緑地、音無さくら緑地と、蛇行の跡地を利用した小緑地が続いている。その中のひとつ、こぶし緑地を訪れてみた(上地図矢印箇所)

 川の両岸にあるくぬぎ緑地とこぶし緑地を結ぶ橋から石神井川を見下ろしてみる。川面までは相当の深さがあり、絶壁のように護岸がそそり立つ。改修により掘り下げられた分もあるが、地形図や古写真をみると、それ以前からもこの付近は水流で深く浸食され、渓谷のようになっていたようだ。この絶壁の左側にこぶし緑地がある。

 こぶし緑地は蛇行の跡を平らに均して、ちょっとしたベンチなどがある以外は何もない小さな広場になっており、南側を向いていて、日当たりはよい。近所の子供がキャッチボールをしたり、犬の散歩をしたり、ちょっと一息ついているような空間になっている。流路跡の三方を囲む崖の斜面には集合住宅が数軒。その中のひとつは4階建ての4階が出入り口になっている。緑地の標高は14mほどだが、台地の上は24mと、標高差が10mほどあるためだ。

 崖の下に沿って、S字に曲がる石組みのせせらぎがつくられている。こちらは親水施設で、木陰には循環水を流す機器が見える。このときは冬場のためか水は止められていた。しかし、どこからかこぽこぽと水音がする。

 人工のせせらぎに近づくと、その裏側、せせらぎの周囲に配された大きな石に隠されるように、青いバケツが置かれていた。

 バケツには、擁壁の下にコンクリートで固定されたパイプから水が注いでいる。

 水温を測ると17.6度。この日の気温は11,2度ほどだったから、温く感じられるくらいだ。バケツから溢れた水は、親水施設の外側に沿って土の上を流れていく。

動画でも見てみよう。水音が聞こえるだろうか。

 水の湧く崖の北側には北区中央公園や自衛隊の敷地など、まとまった未舗装の土地が広がっている。そのあたりで地面に染み込んだ雨水が涵養源になっているのだろう。近くを通りかかったお年寄りが、水、湧いてるだろ、前よりはだいぶ減ったけどな。と声を掛けていった。岩陰に潜んだ湧水だけど、知っている人は知っているのだろう。そういえばバケツも公園の管理で置かれたようには見えない。近所の誰かが置いたものに違いない。夏になったら子供たちが水遊びに使ったりもするのだろうか。

 崖下では他の場所からも、水が滲み出していた。かつてはこれらの水は直接石神井川の流れに加わっていたのだろう。

川の流路は変わったけれど、その跡に取り残されたように今も湧く水。ちょっと健気な感じもする。

住所:北区滝野川4
水量:少ない
用途:なし
タイプ:崖線
湧出地点の標高:14m
水温:17.2度(2月)
水系:石神井川
東京都湧水台帳コード:Ho-08
地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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