2020年1月28日火曜日

四十一番:次郎稲荷の湧水ー小石川植物園の崖線

 木々に囲まれた崖線の下の池。その向こう側の斜面の麓に鳥居が見える。冬なのに緑が鮮やかだ。どこか郊外の山里の風景にも見えるが、ここは文京区だ。

 鳥居の先には「次郎稲荷」が鎮座している。かといって神社の境内というわけではない。ここは小石川植物園。正式には「東京大学大学院理学系研究科附属植物園といい、明治10年開園の日本で最も古い植物園だ。前身は江戸幕府の小石川御薬園に遡る。そんな歴史があるためか、敷地には稲荷社が2つある。そのうちの一つが次郎稲荷だ。
 鳥居の近くまでくると、鳥居の前の地面が抉れて溝となっていて、そこから水が湧き出している。

 何とか溝に降りて水面に近づき水温を測ってみると16度。この日の気温は10度を切っていたが、指で触れると温く感じるくらいだ。地上に出てすぐのまだ気温の影響を受けていない、湧きたての水なのだろう。

 水量は少ないものの、水は確実に湧き出しており、傾斜が緩いせいなのかとてもゆっくりとした流れを生み出している。水面の動きはどこか生きもののようだ。映像で見てみよう。

 鳥居の先、湧水の溝の延長線上にも、人の背丈よりやや高く、そしてすれ違えないくらいの狭い溝が白山の台地の崖線に切り込んでいる。鳥居を潜り、忍び込むように隙間に入っていく。

 つきあたりは数mの急斜面になっていて、その下に小さな祠がある。ステンレス製で比較的新しい。祠の脇の地面近くにはぽっかりと穴が開いている。いわゆる「狐のお穴」だろう。溝が曲がっているため、お穴の前に立つと周囲の見通しがなくなり、ただ空の方だけが開けている。隠れ家のような、何かに護られているような、不思議な空間だ。

 祠に至る溝の両側には石が雑然と積み上げられていて、その上には石碑や古びた狐の石像が何体も無造作に据えられている。狐はあちこちが欠けていて、歳月やかつての信仰を偲ばせる。そして鳥居の向こうには湧水の注ぐ池が見える。鳥が呼び合う声と風が木々を揺らす音が聞こえる。

 小石川植物園の敷地は本郷台の一角である白山の台地と谷端川(小石川)の谷に跨っている。北西から南東に細長く続く敷地の向きに沿ってちょうど真ん中あたりを崖線が横切っている。台地の上は標高25m前後、一方谷は10m前後と、かなりの高低差があって、その斜面はすべて木々に覆われているため山の中のような景観になっている。その崖線の下に、ローム層を浸透した水が湧き出している。
 植物園の中の低地はいくつか池が連なっている。西端の池は庭園風に整備されているが、他の池は自然のまま。湿地のようになっているところもある。これらの池には特に給水はしておらず、すべて湧水や雨水だという。
 過去の調査結果では、台地上の植物園敷地で浸み込んだ水だけではなく、植物園の北西側のやや離れた場所で地面に浸み込んだ水も湧き出しているという。六義園あたりだろうか。

 植物園の中には次郎稲荷の袂のほか、はっきり確認できるところであと3か所ほど湧水がみられる(下の地図の星印)。これら以外の場所でもじわじわと染み出し、池の水となっているのだろう。

 これらの湧水はなぜか東京都の湧水台帳には掲載されておらず、あまり紹介されることもない。大学付属の植物園のためか余り混むこともないから、身近に自然に近い湧水を見たい時にはもってこいのスポットかもしれない。

住所:文京区白山3
水量:少ない
用途:池
タイプ:崖線
湧出地点の標高:12m
水温:15.9度(1月)
水系:谷端川
東京都湧水台帳コード:なし

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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