2019年10月20日日曜日

三十八番:数十年ぶりの復活か。狛江揚辻稲荷の湧水池跡

 しばらく間があいてしまった。拝島段丘の湧水を引き続き記して行く予定で何本か記事の準備をしていたのだが、忙しさに追われるうちに秋の湧水シーズンとなってしまった。10月12日に上陸した台風19号は各地で甚大な災害をもたらしたが、一方で台風の雨をトリガーに都内各地で湧水量が増えている。そんな中で、おそらく数十年は湧いていなかった湧水池が復活していたので、いったん拝島段丘から離れ、いくつか速報的に記事を記そう。

 小田急線狛江駅南口から徒歩で数分、静かな住宅地に囲まれて、揚辻稲荷神社がひっそりと鎮座している。もとは一帯に古くから住む谷田部一族の祀った稲荷社だが、近隣からも信仰されている。

 鳥居の正面に立つと、奥に小さな木造の社殿が見える。その裏側は周囲よりも1mほど低く窪んでいて、その底にかつて湧水池があった。

 1960年代までは豊富な水量を誇り、岩戸用水に注ぎ込んで水田の灌漑に利用されていた。(詳しくはもう一つのブログの記事狛江暗渠ラビリンス(1)揚辻(谷田部)稲荷の湧水池跡とそこから流れ出す川跡」https://tokyoriver.exblog.jp/18149330/をぜひご参照いただきたい)。しかし70年代初め頃には湧水は完全に枯渇、以後水が湧くことはなく、東京都の湧水台帳にも当初より記載されていない。
 かつては毎分9000リットルもの湧水量を誇った狛江駅北口駅前の弁財天池も1972年に枯渇し、現在は地下水の汲み上げで水面を維持しているが、こちらは池のあった窪みとそこを囲む石垣が残るのみだ。
夏場には窪みは雑草で埋め尽くされる。

一方冬には雑草は枯れ果て、乾いた窪地の底に落ち葉が積もる。

さて、台風が過ぎ去って1週間、数ヶ月ぶりに池を訪れると、まさかの水が溜まっているではないか。

雑草が水浸しになり、沈んだ草には土が被っている。明らかに水は溜まって間もない。しかし水は澄み切っていて、周囲の雨水が流れ込んだだけではなさそうだ。

目を凝らして水面の隅々を確認すると、池の底から水が湧き上がる地点があった。

 写真だとわかりにくいので映像で見てみよう。細かい土を巻き上げながら水が湧いているのがわかるだろうか。水温を計ると19.1度。世田谷の国分寺崖線あたりの湧水とほぼ同じだ。この池は周囲の石垣から水が湧いていたものだとばかり思っていたが、かつてもこのように池の底から水が湧いていたのだろう。いわゆる「釜」だったに違いない。

 もう1箇所、池の西端の石垣下からも湧水が確認できた。こちらは石垣も少し湿っていて、ちょろちょろとかすかな音も聞こえる。遠目にみると雑草に隠れているが、近づくと水面がしっかりとあることがわかる。

こちらも映像で確認してみよう。

 池の水深はおそらく15cm程度だろうか。かつての湧水量に比べれば及ぶべくもないだろうけど、普段は完全に干上がっていて、湿気も全くない池の底から水が湧いているのは感動的だ。池の先に続いていた水路は今では暗渠となっていて、ちょうど池の出口のところにマンホールがある。池からあふれ出した水がマンホールに落ちる水音が、静かな境内に響く。はっきり見える湧水地点は2箇所だけだったが、草の隙間から見える、暗渠に流れ落ちる水の量をみると案外水量があり、じわじわと池全体から湧き出しているようだ。
 あと少しすれば水は涸れて、池は再び干上がってしまうのだろう。もしかするとこれまでも、人知れず湧水が復活し、そして気がつかれることのない間に姿を消していたことが何度かあったのだろうか。ほんのひととき現れた、50年前の風景の前にしばし佇んだ。



住所:狛江市東和泉1
水量:1960年代に枯渇
用途:かつては灌漑用水
立地:府中崖線
タイプ:崖線
湧出地点の標高:20m
水温:19.1度(2019/10)
水系:岩戸川
東京都湧水台帳コード:記載なし

地図出典:カシミール3Dで基盤地図情報EDMデータ及び地理院地図を表示したものを加工

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